月震からわかったこと

 地震は、地震そのものが研究の対象になるだけではなく、内部を伝わってくる地震波を解析することによって、その天体の内部を知ることができます。
 ボーリングで穴を掘る以外、私たちは天体(地球でも月でも)の内部を知ることはできません。それに、何百kmもボーリングすることは技術的にも不可能です。ですから、地震波は天体の内部を知るための、もっとも強力な手段です。
 では、月震を解析することによって、月の内部についてどのようなことがわかってきているのでしょうか?

月の内部構造 (深いところ)

 月震のデータは、テキサス大学の中村吉雄教授を中心とするグループと、マサチューセッツ工科大学(MIT)のゴインズ(Goins)教授らを中心とするグループにより、解析が進められました。下は、それぞれのグループが出した、月震を解析した結果わかった月内部の構造(速度構造)です。

図 中村、Goinsによる月内部構造解析結果。左は中村の結果(Nakamura, 1983による)。右はGoinsの結果(Goins, 1980による)。
それぞれの図をクリックすると、より大きな図が表示されます。
Lunar Internal Structure by Nakamura Lunar Internal Structure by Goins et al.

 どちらも、横軸は地震波速度、縦軸は深さです。内部構造を考えるときには、物質を決めるときには、「ある地震波速度(弾性波速度)を持つもの」がそこにある、と考えます。そして、実験によってそのような地震波速度を持つものを特定して、そのような物質がそこにあると考えていきます。

 まず、深いところの構造で気になる点は、「コア(核)があるかどうか」です。この点については、両者共に結論は出ていません。一見すると月の中心部まで構造が決まっているようにみえますが、両者とも深さ数百km以下の構造は「実際のところわからない」としています。
 これはデータの限界から来ています。表側だけのネットワークでは、裏側で起きた月震(つまり、裏側で起きて、月の中心部を通ってきた地震波)を捉えるのは難しいのです。アポロで観測していたときに、そのような月震は本当に数えるほどしかありませんでした。
 そのようなわずかな月震から、どうやら月には何らかの核が存在することが予想はされています。その大きさは200〜400kmくらいで、かなり幅があります。
最近、アメリカの探査機ルナープロスペクターが、重力データの精密な解析から、月のコアの大きさを約200kmと算出しています。ただ、このデータはまだ厳密な解析を行っていないため、もう少し結果をみた方がよいと思われます。

 月のコアの大きさが重要なのはなぜでしょうか?
 月は、地球に火星くらいの大きさの天体が衝突してできたという説(巨大衝突説、ジャイアント・インパクト説)があります。もしこの説が正しいとすると、衝突によって巻き上げられた物質は、地球のマントルの物質に近いはずですから、鉄などの金属分が少ないことになります(そういった物質は、地球が形成されたときに、地球の中心に沈んでいっているはずです)。ですから、金属分が少ない「材料」からできた月は、当然、小さいコアしかないことになります。
 つまり、月のコアの大きさによって、月のでき方に関しての永年の論争に決着がつく可能性が高いのです。LUNAR-A計画SELENE計画ルナープロスペクタ計画をはじめとして、月の内部を調べようという計画が多いのは、まさにこの点がたいへん重要だからなのです。

月の内部構造 (まんなか)

 月にもやはり、地球でいうところの「マントル」に相当する構造があることが推定されています。しかし、それがどのようなものなのかということはわかっていません。ひょっとすると、このあたりが浅発月震などの原因と何か関係しているのかも知れませんが、詳しいことはわかりません。

月の内部構造 (浅いところ)

図 月の表層付近の速度構造(Toksoz, 1974より)
図をクリックすると、より大きな図でご覧頂けます。
Shallow Structure of the moon
 地表付近、とりわけ、「地殻」と考えられる深さ70〜80kmくらいのところまでの部分については、人工月震なども使って、かなり詳しく調べられています。
 まず、地表付近ですが、表面の1kmくらいは、レゴリス(regolith)と呼ばれる、非常に細かい(粒径数十マイクロメートルの)砂で被われています。そして、それが圧力で自然に固まっていると考えられています。
 そして、その下には「メガレゴリス」(megaregolith)と呼ばれる、もう少し大きな(塊状の)岩石があると推定されています。ちょうどその部分で、速度が上がっているのは、そのような「固い」物質があるからだと思われています(固いものほど、地震波は早く通ります)。
 その下、20kmくらいのところまで、玄武岩のような物質が存在していると思われています。
 その下は、ちょうど地球でいうところの「地殻」と呼ばれる、岩石層の領域になっていると思われています。途中で何層か、速度が速くなっている「不連続層」がありますが、この部分は、岩石が圧力によって相転移と呼ばれる現象を起こして、変化しているのではないかといわれています。
 ただ、図にあるように、あるところだけ速度が一定ということはなくて、実際には徐々に速度が速くなっていると思われます(これも、データがないためにそのような仮定をして解析をせざるをえなかったためではないかと思います)。

 そして、60〜80kmくらいのところに大きな不連続層がありますが、ここが「地殻」と「マントル」の境目ではないかと考えられています。
 1994年に打ち上げられたアメリカの月探査機、クレメンタインが解析した結果では、やはり地殻の深さは80km程度ではないかと推定されていますので、アポロの月震解析結果とほぼ合っているといえます。
 地球の地殻の厚さは、陸で35kmくらい、海では10kmくらいといわれていますので、なぜ月の地殻が地球に比べて厚いのかはよくわかりません。また、地殻の厚さには地域差があり、もっと薄い(40kmくらい?)ところもあるようです。

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