月震についてのFAQ
このコーナーは、月震に関してよく寄せられる質問をまとめたものです。
なお、今後の探査の進展及び私の不勉強により、内容が変更されることもありますので、ご承知おきください（不勉強の方は、なるべくないようにしたいと思います…）。
月震というのは誰が言い始めたのですか？
「月震」という呼び名は、英語の"moonquake"を訳したものです。
皆さんご承知の通り、英語で地震のことはアースクェイク"earthquake"といいます。earthは「地球」、quakeは「揺れる」ことを表しますから、そのまま訳すと、「地球の揺れ」つまり地震ということになります。これを単純に月にあてはめれば、地球の部分を月 moon に取り替えてしまえばよいということになり、moonquake、すなわち月震ということになるわけです。
しかし、earthquakeという言葉は元々「地球が揺れる」という意味ではなく、大地(これも英語ではearthといいます)が揺れることを意味しているという方が正解でしょう。そうなれば、月も大地が揺れているわけですから、月の地震もearthquakeと言うべきだ、という考え方も成り立ちます。
専門の論文では、moonquakeとlunar earthquake(月の地震)のどちらかで表現しているようです。私自身は、洒落っ気のあるmoonquakeという言い方が好きです。
私たちが将来月に行ったとき、月震で被害に遭う可能性はあるのでしょうか？
阪神大震災のようなひどい被害に遭うことはまずないといってよいでしょう。
月震のコーナーでも述べましたが、月の地震の大きさは、深発月震でマグニチュード1〜2程度、最大級の浅発月震でもマグニチュード3〜4程度です。マグニチュード1の地震は、地球上では極微小地震と呼ばれており、人体に感じられることはまずありません。マグニチュード4程度の地震は有感地震となることもありますが、よほどのことがない限りは、被害が出ることはまずありません。それなりにしっかりとした構造物を月面に造るのであれば、月震で建物が倒れたりすることはまずないでしょう。それより、我々が月震を感じることさえ稀かも知れません。意外と、我々人類の活動が、月震の最大の震源となる可能性だってあります。
それでも、一応心配性の方のために申しておきます。例えば大きな隕石が衝突したりした場合には、かなりの規模の月震が引き起こされる可能性があります。もしそれが月面基地の脇であったとしたら、相当な被害を及ぼすことが考えられます。
それからもう１つ。月震はまだ「わずか」７年程度しか観測されてきていません。実は我々は、もっと大きな月震があることを知らないだけかもしれないのです。これは、LUNAR-Aをはじめとする今後の月探査によって明らかにされていくことでしょう。もっとも、月は地球と違って内部は既に冷えていると考えられていますから、大きな地震を起こせるようなエネルギー源は既に尽きているでしょう。ですから、我々が知らない大きな地震が起きる可能性は、あまりないと言ってもよいと思います。
月以外に、地震が起きている天体はないのでしょうか？
まず、固体の表面を持つ天体に限ってみてみますと、これまで地震計を持っていったことがある天体は、月と火星に限られています。
火星にはバイキング探査機に地震計が搭載されていきました。これが地震を記録したはずなのですが、火星の強い風がノイズ源となってしまい、はっきりとした地震記録を捉えることができないまま、終わってしまいました。今後の火星探査では地震計を持っていく計画があるので、何らかの「火震」を捉えられる可能性があると思います。
火星や水星といった比較的大きな天体では、地震が起きている可能性が高いと思います。水星は特に、太陽からの強い潮汐力の影響を受けていますので、内部で地震が起きていることが期待(？)できます。
木星や土星といったガス惑星では、地震、それも、普通の地震より周期が極めて長い、「自由振動」という現象が起きています。自転周期やスペクトルなどを厳密に測り、表面の振動を捉えようという試みが始まっています。うまくいけば、地震計を持っていかなくても、「木震」などを捉えられるということができるかも知れません。
氷衛星ではどうでしょうか？ こういった衛星でも、氷が割れたり内部で流動したりするときに、何らかの「氷震」が起きることが考えられます。
最近は木星の衛星、エウロパの内部に海が発見されたそうです。こういった海があれば、地球のマントル対流のように、氷が流動することが考えられますから、当然氷同士がぶつかり合ったり摩擦を発生させることもありうるでしょう。岩石物質などとの相互作用もあるかも知れません。
