はじめに

本研究の背景及び概要

 アポロ計画による月の地震波探査により、月にも地震活動が存在することが明らかになった。しかし、月震の波形は地球の地震波形とは全く異なるものであり、これまで月震の後続波解析はほとんど行われてこなかった。
 1997年に宇宙科学研究所が実施する LUNAR-A 計画では、地震計及び熱流量計を搭載したペネトレータと呼ばれる槍状の探査機を月面3ヶ所に着陸させ、月内部構造の探査を行う予定である。着陸点の選定や地震計の性能などを決定するためには、コアに関連する後続波の解析が必要になる。今回、これまでほとんど行われてこなかった深発月震の後続波の解析を行い、コア由来と考えられるフェーズの検出に成功した。これらの結果を用いて、LUNAR-A計画における地震計の適切な設置場所について検討を行った。

解析方法及びその結果

 深発月震の S/N 比を向上させるため、4グループの深発月震についてスタッキング処理を行った。
 一方、これまでの月震解析の結果得られた月の内部構造モデル(Nakamura et al., 1982)を用い、月における理論的な走時曲線と、幾何学的な波線の拡がり(geometrical spreading)を計算した。その結果、月内部にコアが存在した場合、コアを通過するP波(PKP)は震源の真裏で直達P波の数十〜100倍程度の振幅を示し、コアを通過して裏側で反射され、再びコアを通って震央側の地表に戻る波(PKPPKP)が、震央距離が小さい場合にはかなりの振幅で観測される可能性が明らかになった。
 そこでスタッキング処理を行った4グループの深発月震の波形について、走時曲線を参考にしてPKPPKPが存在するかどうか調査したところ、各波形についてPKPPKPと思われるフェーズが同定できた。これらがスタッキングの失敗や地表反射波である可能性は少なく、PKPPKPである可能性が現在のところ高い。
 こういったコア由来の深発月震後続波を捉えるためにどのように地震計を配置すればよいかを考察した。1組はアポロとのデータの比較のためにアポロ12号着陸点付近に、もう1組は大振幅のコア通過波を捉えるために、最も活動が活発な深発月震グループであるA1の震源の真裏付近に設置するとよいと思われる。残り1組については任意性が残されるが、候補として北緯49度、東経62度付近に設置すると、比較的幅広い震央距離分布が得られる。