上節までで述べてきたMQDBの仕様は、以下のような利点を持つ。
高速なデータの入出力が可能
MQDBでは、ファイル圧縮を利用することによってデータ量を大幅に減少させることが可能である。圧縮は、MQDBが内部的に行うこともでき、またファイルそのものを圧縮プログラムを利用して圧縮してもよい。いずれにしても、これまでの非圧縮のデータフォーマットに比べてデータ量は数分の1にまで減少していることから、データ転送時間も数分の1に短縮されることになる。
ネットワークに対応したデータ記述形式
MQDBでは、RFC1014[1]によって定義されている、XDR(eXternal Data Representation)によるデータ入出力をサポートしている。XDRは、異なるコンピュータ間でのデータの記述形式を統一するための規格であり、これを利用することによって、異なるコンピュータ・システム間でもデータの同一性が保証される。XDRを利用した場合にはデータはバイナリ形式で記述されるため、高速なデータ入出力が可能である。
ヘッダはテキスト形式で記述される
ファイル先頭にあるヘッダ部はテキスト形式で書かれており、直接ユーザが見ることができる。そのため、ヘッダの情報を見ることは比較的簡単に行える。ユーザがデータを直接見る機会は少ないが、観測点の位置やデータ記述形式などを見る機会は比較的多い。その度ごとに特別のプログラムを用いなくても、ヘッダの情報を得るだけであれば通常テキスト処理に使っているコマンドやアプリケーションを利用するだけでよい。
複数のチャンネルのデータを1ファイルで扱うことができる
例えば、同じ地震計で取得された3成分のデータを、MQDBフォーマットでは1ファイルで扱うことができる。このため、1成分1ファイルのSACフォーマットなどに比べて、データ交換の手間が軽減されるばかりでなく、別の成分のデータを転送してしまうといった誤りもなくなる。さらに、MQDBでは255チャンネルまで1ファイルに記述できるので、例えば20観測点の上下動を1ファイルに記述するといったことも可能となる。
多様なデータフォーマットをサポートしている
先程述べたXDRを利用したデータ表現形式の他に、MQDBではフルテキスト方式と呼ばれる、データ部をテキストで記述した方式や、バイナリ混在方式と呼ぶ、データをそのままファイルに出力した形式もサポートしている。フルテキスト形式は、入出力に若干時間が必要であるが、テキストファイルであるため、既存の解析ユーティリティやテキスト処理コマンド、あるいはアプリケーション・プログラムなどで容易に処理することが可能である。もちろんフルテキスト形式によっても、異なるコンピュータ・システム間でのデータ同一性は保証される。
一方バイナリ混在方式では、異なるコンピュータ間でのデータ同一性は保証されないが、大変高速な入出力が可能であり、例えば処理結果の一時的な出力などに利用できる。
これらのデータ記述形式はヘッダ部に記録され、入出力の際にライブラリにより自動的に処理される。また、ユーザが自ら出力用のデータ記述形式を指定することも可能で、状況に応じて最適なデータ記述形式を選択することができる。
アクセス用ライブラリが用意されている
MQDBでは、データにアクセスするためのライブラリが、C言語とFORTRAN用に用意されている。MQDBフォーマットで記述されたファイルにアクセスする際には、これらのライブラリを呼び出すだけで、データの入出力が行える。
ライブラリは異なるコンピュータ・システム及び言語処理系でも移植性が保てるように設計されており、異なるオペレーティング・システムでもソースファイルの互換性は保証される。さらにライブラリは3層に階層化されており、各層間の関係は厳密に定められている。従って、将来のライブラリ拡張にも容易に対応することができる。またこのライブラリを元に、独自のライブラリを作成することも可能である。
本データベースの思想は、アポロの月震データのみならず、将来のLUNAR-A計画におけるデータ取得や、一般の地震波データ、及び画像ファイル等のデータベース構築にも応用することができる。